政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受けて、住宅分野においてもさらなる省エネ化が求められています。
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方検討会」では、2050年までのロードマップを取りまとめて公表しました。
住宅の省エネ化は今後どうなっていくのでしょう?
今回は硬いお話ですが、今までの経緯と現在、これから向かう方向性を理解してもらうために調べてみました。
今までの経緯
昭和55(1980)年に「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」によって省エネ基準が最初に制定されてから、平成4(1992)年、平成11(1999)年、平成25(2013)年に改正され、その内容が強化されてきました。
さらに住宅を含む建築物の省エネ化を図るために「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が成立し、省エネ法の平成25年基準がスライドする形で、建築物省エネ法の平成28(2016)年基準が制定されました。
これが現行の「省エネ基準」になっています。
現在
現行の省エネ基準は、建築物の構造や窓まわりなどの断熱性能を高めて熱の出入りを少なくすること(外皮基準という)に加え、住宅設備による消費エネルギーの違い(省エネ性の高い給湯器やエアコンを使ったり太陽光発電で発電したり)なども加味する(一次エネルギー消費基準という)。
さらに、地域の気候条件の違いも考慮するなど、複雑な計算をしたうえで総合的に測られています。
新しく建築物を建てる際には、この省エネ基準を満たす必要があり、非住宅の大規模~中規模の建築物はすでに適合の義務化が進められています。
住宅については、一戸建てなど小規模住宅で努力義務(2021年4月以降は建築士から建築主への説明義務)、マンションなど中・大規模住宅(300平米以上)には届け出義務が課されていますが、いよいよ2025年度にはすべての住宅で適合が義務化される見通しです。
今後、向かう方向
●2030年には新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること
●2050年にはストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅・建築物において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること
住宅、特に新築住宅については「ボトムアップ」「レベルアップ」「トップアップ」のレベル別に、あるべき姿が提示されています。
また、既存の住宅は改修を行わないと性能が引き上げられないため、効率的・効果的な省エネ改修を促進することも掲げられています。
「ボトムアップ」 2025年度にすべての住宅で省エネ基準の適合を義務化し、2030年までにはその基準をZEH(ゼッチ)レベルに引き上げる
「レベルアップ」 省エネ性能のボリュームゾーンを引き上げる。ZEHなどの住宅に対する補助などの支援をしつつ、誘導基準をZEHレベルに引き上げ、長期優良住宅や低炭素建築物の認定基準などもZEHレベルに引き上げるなど、2030年までに省エネ性能の基準を引き上げる
「トップアップ」 より高い省エネレベルを実現するために、ZEH+やLCCM住宅などの取り組みを促進する
既存住宅 省エネ改修を促進する
省エネ基準とは「最低ここまでは満たすべき」というもので、建築物省エネ法ではそれより高い「誘導基準」があり、それを2030年までにはZEHレベルに引き上げることもロードマップに盛り込まれました。
ZEHはハウスメーカーの注文住宅では普及しつつあるものの、まだ一般的ではありません。
しかし、2030年までには、すべての住宅の最低水準の省エネ性をZEHレベルにしようとしているわけです。
住宅の省エネに関する基準はほかにも!
「低炭素建築物」
「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づく、低炭素化が講じられた建築物のこと。省エネ基準よりも一次エネルギー消費量を抑えたうえで、節水対策やヒートアイランド対策、HEMS(家庭で使うエネルギーを見える化して最適化を図る管理システム)や太陽光発電、蓄電池によるエネルギーマネジメントなどの措置を2項目以上講じることなどが求められています。
「長期優良住宅」
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、長期にわたり良好な状態で使用するための条件を満たす優良な住宅のこと。
省エネ性に加えて、劣化対策、バリアフリー性、維持管理・更新の容易性、住戸面積などの多くの条件を満たすことが求められています。
いずれの場合も、所管行政庁に申請し、認定基準を満たせば認定を受けることができます。
それぞれの省エネ性の認定基準をZEHレベルに引き上げることもロードマップに掲げられています。
ZEHレベルよりもさらに省エネ性が高い「ZEH+」「LCCM住宅」!
「ZEH+(プラス)」 はZEHより一次エネルギー消費基準や外皮基準を強化し、HEMS導入などで年間の一次エネルギー消費量の収支をマイナスにする住宅のこと。
「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅」は、建設時に省エネ性を高めることに加え、住宅の長寿命化などにより居住時や廃棄時までの住宅のライフサイクルを通じて、一次エネルギー消費量の収支をマイナスにする住宅のことです。
今回公表されたロードマップでは、こうしたトップレベルの省エネ性の住宅への取り組みも促進するとしています。
新築住宅の太陽光発電設備の設置拡大も視野に!
ZEHを目指すには、エネルギーの消費を抑えるだけでなく、エネルギーを創出することも行わなくてはなりません。
そのために、太陽光発電設備の設置の義務化も検討されましたが、ロードマップでは2030年までに一戸建ての6割に太陽光発電設備の設置を目指し、2050年までに設置が一般的になることを目指すとしています。
そのために、低コスト化や設置に対する支援制度なども求めています。
最後に、このとりまとめは「2050年カーボンニュートラルの実現及びこれと整合的な2030年度46%削減という野心的な目標の実現に向けて」、住宅や建築物についての実行計画(進め方)を示したもので、「国としては、2050 年までにカーボンニュートラルが実現できれば良いという考えを持たず、可能な限り早期にビジョン(あり方)が実現できるように継続的に努力することを求める」とまとめています。
つまり、検討会は「2050年カーボンニュートラル」宣言をしたからには、高いハードルに努力して挑みなさいと言っているのです。
まとめ
必ずしもロードマップ通りになるとは限らないですが、今後全国的に住宅の省エネ性能が高まっていくことは確実でしょう。
そのために建設コストなどが上がって住宅価格は上がる影響もあるでしょうが、コストよりも住宅の快適性と住宅の寿命が長くなること、更にその先の地球の温暖化ストップに影響を与えるメリットは大きいはず。
2050年にはどんな未来が残っているでしょうか?